伊豆の南端に位置する下田を訪れるのは久しぶりになる。
5月中旬とはいえ晴天に恵まれた伊豆半島は、初夏と呼ぶにふさわしい気候だった。
下田といえば1854年の日米和親条約での開港でペリー提督が入港したことで有名だ。
そういうルーツを持つ土地柄のため、街のいたるところに黒船の逸話が残されており、歩いているだけで様々な歴史に触れることができる。
TVアニメ「夏色キセキ」の舞台を巡るために訪れたのはもう数年も前になるだろうか。
あの時は黒船祭の日だったので賑わっていたが、今回は黒船祭を翌週に控えた下田の日常を体感してみようと思う。
初夏の下田散策
ゴールデンウィークの次の週末、そして黒船祭を1週間後に控えた下田は一息ついた雰囲気で人手も少なめだった。
車を駐車場に停めてペリーロードの方へ向かい商店街を抜けていく。
この辺りの道は黒船祭が始まると商店が臨時の露店を出したりして多くの観光客で賑わう。
ペリーが上陸し行進をした小径「ペリーロード」はレトロ感あふれる雰囲気を残す下田の名所である。
古い家屋を使ったカフェなど観光客の人気も高い。
この日は晴天で花や新緑も美しく映えて、気持ちの良い散策日和だった。
むせ返るような花の香りに誘われて、ペリーロードの奥にある了仙寺にやって来た。
了仙寺は別名「ジャスミン寺」と呼ばれ、境内には溢れんばかりにアメリカジャスミンが咲いていた。
ジャスミンにヤシの木、普通に見れば寺とはミスマッチな取り合わせだが、開国の港として歩んできた下田らしい風景なのかもしれない。
ペリーロードから南にしばらく歩くと、内湾を利用した展示施設や屋外イルカショーで有名な「下田海中水族館」がある。
やや時間を持て余していたせいもあるが、水族館を見かけると旅先でも入ってしまう程度には水族館好きなので覗いてみることにした。
近代の水族館と比較すると魚類の展示の物足りなさは否めないが、イルカやアシカのショーは他のどの施設よりも見応えのあるものだった。
下田海中水族館では内湾を利用してバンドウイルカのショーを開催していた。
とにかく近くで見れるので楽しいし、カメラも長玉が必要なく標準ズームでジャストフレームになる。
しかも特別席の客の上を飛んでくれるなどサービスも満点だ。
ここはプールではなく内湾なので当然海水で、調教師は自ら飛び込んでイルカとともに芸を披露する。
内容も非常に濃厚で、練度の高いショーは見ていてとても楽しかった。
屋内プールではカマイルカ達がショーを披露してくれた。
カマイルカの持ち味は靭やかな身体から繰り出される大ジャンプで、近い距離からの見物というのもあって迫力満点で素晴らしかった。
客席から選ばれた女の子が即興で調教師になれるイベントなど盛り上がりも上々、伊豆にこんな楽しい水族館があったとは自分のリサーチ不足を反省である。
屋内プールのショーの後にはバックヤードツアーが用意されていて、希望者は500円で参加することが出来るというので参加することに。
普段立ち入ることのできない水族館の裏側では、治療中の生体や孵化を待っている卵など、様々なものを見ることが出来る。
ウミガメも持ってみることが出来ると言われたが、落としてしまっては大変なので餌やりだけ楽しませてもらった。
他の水族館とトレードする生体がいるプールの前では、全国の水族館との協力関係など興味深い話を聞くことも。
世界の海が繋がっているように、水族館の水槽もまた繋がっていたのだ。
下田の散策で空腹になったので、道の駅開国下田みなとへ名物の「下田バーガー」を食べに行った。
夏色キセキの放送時に食べようと思っていてずっと食べそこねていたご当地グルメだが、正直それほど好みではなかったので残してしまった。
脂の乗ったキンメの身はねっとりとしていて刺し身には良いと思うが、フライにするには向いているとは思えなかった。
長い年月がイメージを膨らませすぎてしまったのだろうか、当時と比べて付け合せのポテトが省かれてしまったのも残念だった。
下田からさらに伊豆半島の先を目指して進むと、「龍宮窟」という観光名所がある。
TVやCMのロケ地などでも有名な場所で、紹介されるたびに混み合うので今まで近づくことは無かったが、最近とあるマンガの舞台として登場したので足を運ぶことにした。
現在の龍宮窟は天井の開口部周辺の崩落があるので、昔のように内部を歩き回ることはできなくなってしまっている。
以前は「紅の豚」のポルコの秘密基地に似ているということで有名になったり(本当のモデルはザキントス島であろうということです)、最近では吉永小百合さんが登場する「JR大人の休日倶楽部」のCM撮影でも使われている。
浜の形がハートに見えるということで有名
この時は5月だったが気温が高く水平線が霞むほどだったので、撮影目的なら空気の澄んだ冬がいいと思う。
龍宮窟の隣にはサンドスキー場があり、日中に来た時は数人がソリのようなもので滑走していた。
楽しそうだったが、耳の奥まで砂だらけになりそうだ。
海からの強風が波を押し寄せ、岩を削り、砂を寄せることで様々な景色を作っている。
伊豆半島ジオパークとして認定されているだけあって、自然の見応えはさすがであった。
下田港にある犬走島は釣り天国といった様相。
とあるコミックではドッグランアイランドと呼ばれたが、残念ながら犬は一匹もいなかった。
立入禁止の看板は出ているものの閉ざされてはおらず、釣り餌の売店もあったりするので便宜上のものなのだろうか。
伊東港などと同様に自己責任で立ち入ることは可能のようで、下田湾のかなり真ん中まで行けるので釣果も期待できそうな場所だった。
最後は爪木崎の灯台を散策してみた。
何も考えずにやって来たので、午前中は逆光になってしまっているのを考慮してなかった。
どうせなら日の出はサンドスキー場ではなくて、ここで迎えても良かったかもしれない。
この日の伊豆は気温が高くて水平線が霞んでいたが、海はとても綺麗でこれからの季節が楽しみだ。
しかし、海水浴シーズンになると混み合うので、ぼくは夏はほとんど来ることがないのであった。
どこかで平日休みを貰って夏の伊豆も走ってみたいものだ。
万宝商店のえぼ鯛の干物
今回の下田は2日間滞在、初日に着いてすぐに外浦にある「万宝商店」に立ち寄ることにした。
ここは干物の専門店で持ち帰りの他に、その場で焼いてもらい中のイートインスペースで食べることが出来る。
店主自慢の干物が並ぶ店内。
変わったものだと伊勢海老やのどぐろなどがあるが、高級魚は数千円~とかなり高価なので手は出ない。
もちろん数百円の買いやすい干物も置いてあるので、そのあたりを気軽に頼むのもいいだろう。
今回は好物の”えぼ鯛”を焼いてもらうことにした。
注文すると店主は笑顔で「これは刺し身にしても最高のえぼ鯛なんだよ」と取り出してくれた。
刺し身で食べるような高級なえぼ鯛、それを干物にしてしまうとは何という贅沢。
炭が弾ける音を聞きながら、焼き上がりを待つことにした。
万宝商店ではご飯やアルコールの持ち込みがOKとなっている。
というか万宝商店ではほとんど用意されていないので、必要であれば各自で用意してこなくてはいけない。
ぼくは予め家からご飯とお湯を持ってきて、ビールと味噌汁は下田から歩いてくる途中にコンビニで購入した。
ゴールデンウィークはかなり忙しかったとのことだが、この日は行楽イベントの合間になったせいで貸し切り状態。
では乾杯。
炭火でじっくり焼いた身は驚くほどふっくらで、今まで食べた干物の中で間違いなく過去最高のものだ。
「頭が一番美味いんだ、がぶっとかじってごらん」
そう店主に言われかじりついてみると、身とはまた違った旨味が口の中に広がった。
サクサクしていつつも味はしっかり、特に目の周りに付いている僅かな身がとてつもなく美味い。
最後は背骨を炙ってもらって最高の骨せんべいを頂いた。
「このえぼ鯛は残すところがないよ」と主人に言われた通り、骨一本も残さず食べてしまった。
ビール一本ではとても足りなかった。
他には千葉産の太刀魚も焼いてもらった。
最近になって新しい仕入れルートが出来たという話を伺いながらホクホクの太刀魚をいただいた。
やはり千葉産、内房の太刀魚は最高ということだった。
今回はえぼ鯛が2300円、太刀魚が1100円、焼き代は別途という会計だった。
良い魚を選ぶとそれなりの値段になるが、干物の品質から考えても決して高くはない。
真アジ300円、サバ塩干し500円とリーズナブルなものもあるし、アルコールが持ち込みなので呑む目的ならば最終的に相当安くつくのだ。
会計の時におかみさんと息子さんに「えぼ鯛美味しかったでしょう?」と続けてお声掛けしていただいた。
やはり相当に自信のあるえぼ鯛だったようだ、選んだ自分偉いぞ。
ご主人もとても良い人で色々な話を聞かせてもらって楽しかった。
また来よう。
今度誰か一緒に飲みに行きましょう。
というわけで「初夏の下田散策 自然が造り出した秘密基地・龍宮窟と、万宝商店のえぼだいの干物」でした。
もう既にお気付きかとは思うが、今回散策した場所の多くは「ゆるキャン△」のコミック8巻の伊豆キャン編で登場した場所。
つまり早く行っておかないと、2期で放送したりしたらとんでもないことになるってばよ。
でも、龍宮窟と万宝商店は以前から行きたいと思っていた場所なので、結果的にきっかけをくれたので有難かった。
これからは海と空が綺麗に見える季節、また伊豆に来てみたいと思う。
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